麻丘めぐみ「めぐみのジューク★ボックス」ライブレポート
アーティスト・コラム

麻丘めぐみ「めぐみのジューク★ボックス」ライブレポート

♪笑顔と 元気が いつも味方だから

 最新曲「フォーエバー・スマイル」の世界観をそのまま体現したような、心温まるひとときだった。11月24日(日)に東京の上野Quiで開催された麻丘めぐみのライブ『めぐみのジューク★ボックス』のことである。単独公演は2009年9月の『Megu-Vision No.3』以来、実に15年ぶり。チケットは即完売で、会場にはこの日を待ちわびたファンが詰めかけた。

 開演は15時。まずミュージシャン3名が登壇し、オーバーチュアとして映画『オズの魔法使』主題歌の「虹の彼方に」を奏でると、これから始まる“夢の世界”への期待が高まる。やがてモノトーンのシックなツーピース姿の主役が登場。万雷の拍手が巻き起こるなか、♪もしもあの日 あなたに逢わなければ~と歌い出す。そう、デビュー曲の「芽ばえ」(1972年)だ。チャート2位を獲得した同曲で、麻丘は日本レコード大賞の最優秀新人賞を受賞。お姫様カットの美少女として一躍ブレイクした。おそらく来場者の多くは「もしもカコちゃん(麻丘の本名に由来する愛称)に逢わなければ・・・」と自分の人生を重ね合わせていたに違いない。一瞬で会場の空気を作った麻丘は続けて「悲しみよこんにちは」(1972年/2ndシングル)を歌唱。当時と変わらぬキュートな笑顔で観客を魅了する。

 「ようこそおいでくださいました。お久しぶりです!」。MCの第一声にはライブで歌える喜びが溢れていた。麻丘は芸歴60年を迎えた2020年に新曲を含む自選ベスト『Premium BEST』(2CD+DVD+BOOK)をリリース。その直後に新型コロナウイルス感染症が拡大したため、発売記念ライブを見合わせていた。4年越しの念願が叶っただけに胸に迫るものがあったのだろう。

 今回の公演名に“ジュークボックス”というワードを入れたのは、オリジナル曲だけでなく、いろんな曲を歌いたいとの想いから――。そう明かした麻丘は近年、若い世代からも注目されている昭和歌謡のブームに触れ、「今日は当時を知る自分だからこそ歌える昭和の歌謡曲を歌います!」と宣言。実際この日のライブでは、本公演のために制作されたTシャツを着用した28歳のスウェーデン人が最前列に陣取るなど、昭和歌謡や麻丘の人気が海外にも波及していることを窺わせた。

 麻丘自身は少女時代、スタイリスティックスやコモドアーズなどの洋楽を好んで聴いていたそうだが、歌手だった姉の影響で歌謡曲にも馴染んでおり、デビュー前のデモテープ録りでは奥村チヨ「終着駅」、伊東ゆかり「誰も知らない」、坂本スミ子「夜が明けて」の3曲を歌ったという。そんな裏話が聞けるのもライブの楽しさ。「これからは先輩たちの歌も歌い継いでいければ」と意欲を見せた麻丘は4曲の昭和歌謡をオリジナル歌手との交流や想い出を交えながら、情感豊かにカバーした。

 まずは伊東ゆかりの「小指の想い出」(1967年)。実は小学校の先輩で、今も第一線で歌い続ける姿に憧れているという。続いて同じレコード会社から同時期にデビューしたチェリッシュの「白いギター」(1973年)。メンバーの松崎好孝・悦子夫妻とは今も親交があるそうで、2人との微笑ましいエピソードが観客の笑いを誘う。3曲目は2018年に引退した奥村チヨの「恋の奴隷」(1969年)。コンプライアンスが叫ばれる昨今では生まれないであろう官能的な歌だが、なんの制約もなく自由に創作できた昭和時代ならではの歌謡曲として紹介された。そして4曲目は朝丘雪路の「雨がやんだら」(1970年)。歌唱前には自身の芸名“麻丘めぐみ”が決定した経緯が明かされ、「同じ“アサオカ”繋がりで歌います」という流れだった。

 歌謡曲黄金時代にデビューし、多くのレジェンドと共演してきた麻丘だから語れる貴重なトークと、誰もが口ずさめる名曲の数々。あの頃を知る昭和世代も、後追いファンと思しき若者も、オーディエンスがみな笑顔でステージを見つめているのが印象的だったが、第1部はここで終了した。

 6thシングル「アルプスの少女」(1973年)の「ヤッホー!」の掛け声で始まった第2部では本人いわく“先代の麻丘めぐみ”が降臨。アイドル時代を彷彿とさせる花柄のワンピースに身を包み、作曲家・筒美京平が手がけたシングルA面のヒットパレードで場内のボルテージを一気に上げる。メドレーで歌われたのは「アルプスの少女」、「女の子なんだもん」(1973年)、「森を駈ける恋人たち」(1973年)、「ときめき」(1974年)の4曲。こうした贅沢な展開ができるのはあまたのヒット曲を持つ人の強みと言えるが、本人が楽しく歌っていることがこちらにも伝わってきて、幸福感で満たされた。彼女と同時期にデビューした歌手の多くが音楽活動から遠ざかっている今、本人の生歌を聴けることに感謝の念を抱いたのは筆者だけではあるまい。

 「可愛い!」の声に「みんな優しいのね。もっと褒めて~!(笑)」と応じた麻丘は筒美作品への想いを吐露。筒美からはアルバム曲を含め、約40曲を提供されているが、麻丘はその世界観を大事にするため、キーやアレンジを変えずに歌うことを心がけているという。そのポリシーは2020年に他界した恩師への何よりのはなむけだろう。

 MCではトップアイドルして多忙を極めた頃の秘話も語られた。当時はビッグバンドの演奏による歌番組が連日、生で放送されていたが、音響の環境が整っておらず、自分の歌声がバンドの音や観客の声にかき消されて聴こえていなかったこと。家族を背負って歌手になった人が多く、切磋琢磨しながらヒットを出そうという熱気に満ちていたこと。男性との会話は一切禁止だったことなど、いずれも70年代の歌謡界を物語る興味深い話ばかり。スカウトされて歌手デビューし、あっという間に売れっ子となった麻丘は「自分は場違いな人間」との意識を抱えており、結婚を機に5年で引退するが、後年、素晴らしい楽曲をたくさん歌っていたことに気づき、歌への意欲が再び芽ばえたという。

 今回のライブは彼女が全幅の信頼を寄せるミュージシャン3名(ピアノ:若宮功三、ベース:藤田光則、ドラムス:原田佳和)のバックアップを得て実現。彼らとの会話からも和気藹々とした関係性が伝わってきたが、筒美京平の凝ったアレンジを3人で再現する演奏力もこの日の聴きどころであった。

 第2部の後半ではやはり筒美が作曲を手がけた「悲しみのシーズン」(1974年)に続いて、2020年に発表した「フォーエバー・スマイル」(作詞:松井五郎、作曲:都志見隆)を披露。同曲は2019年に98歳の母親を見送った麻丘が喪失感に襲われるなか、「これからは自分のためにも笑顔で元気に生きていきたい」との想いをヒットメーカーの松井五郎に打ち明けたことから生まれた人生賛歌で、麻丘めぐみの今の心情が詰め込まれている。来年は古希を迎える彼女だが、バンドの演奏で楽しげに歌う姿に勇気づけられたファンは多かったはずだ。

 続くMCでは歌に向き合う姿勢の変化についても言及。無我夢中で駆け抜けたアイドル時代は緊張を感じる間さえなかったそうだが、俳優としての経験を積み、表現の奥深さを知るほどに歌うことが怖くなったという。しかし近年は歌うことが楽しくなり、時にはカラオケにも行くのだとか。母親の他界や長いコロナ禍で人生を見つめ直したことも、自らが楽しめることへと気持ちを向かわせたようだ。

 今後の音楽活動への期待が高まったところで、麻丘は「この曲があるから今の私があります」とコメントのうえ「わたしの彼は左きき」(1973年)をパフォーマンス。紅白歌合戦初出場をもたらした代表曲を当時の振付そのままに歌い、サビでは客席にマイクを向けるなど、会場とのさらなる一体感を醸成して本編を締めくくった。

 鳴り止まぬ拍手と「アンコール!」の声に応えて、ステージに再登場すると8thシングルの「白い部屋」(1974年)が披露された。発売当時、日劇リサイタルの最中に舞台から転落し、およそ半年間の休業を余儀なくされたため、ほとんど歌われる機会がなかった楽曲だけに、イントロが流れた瞬間「この曲も歌ってくれるんだ」という驚きがあった。それは彼女と同じ時間を歩んできた来場者も同様だったのではないか。

 歌手・麻丘めぐみの本格的な復活を感じさせた本公演は尾崎紀世彦の「また逢う日まで」(1971年)を全員で合唱してフィナーレを迎えた。言うまでもなく昭和歌謡を代表する名曲だが、その選曲には「近いうちにまた逢いましょう」との想いが込められていたに相違ない。次回ライブが待ち遠しい――。そんな気持ちにさせてくれたひと時であった。

(TEXT/濱口英樹)

 

麻丘めぐみ「めぐみのジューク★ボックス2024」

【日時】2024年11月24日(日)開場14:30 開演15:00

【会場】池之端ライブスペースQui 〒110-0005 東京都台東区上野2-13-2 パークサイドビル4F

【出演】麻丘めぐみ、若宮功三(Pf)、藤田光則(Ba)、原田佳和(Dr)

【セットリスト】

第1部

01. 芽ばえ(1972年/1stシングル)

02. 悲しみよこんにちは(1972年/2ndシングル)

03. 小指の想い出(1967年/オリジナル:伊東ゆかり)

04. 白いギター(1973年/オリジナル:チェリッシュ)

05. 恋の奴隷(1969年/オリジナル:奥村チヨ)

06. 雨がやんだら(1970年/オリジナル:朝丘雪路)

第2部

オリジナルメドレー

07. アルプスの少女(1973年/6thシングル)

~08. 女の子なんだもん(1973年/3rdシングル)

~09. 森を駈ける恋人たち(1973年/4thシングル)

~10. ときめき(1974年/7thシングル)

11. 悲しみのシーズン(1974年/9thシングル)

12. フォーエバー・スマイル(2020年/CD・DVD-BOX『Premium BEST』収録)

13. わたしの彼は左きき(1973年/5thシングル)

アンコール

14. 白い部屋(1974年/8thシングル)

15. また逢う日まで(1971年/オリジナル:尾崎紀世彦)