ボーダーレスなギタリスト 鮎川誠
アーティスト・コラム

ボーダーレスなギタリスト 鮎川誠

鮎川誠の追悼盤「VINTAGE VIOLENCE」が今月発売された。鮎川自身が参加した楽曲を中心に収録した初の企画アルバムである。もちろん、サンハウスやTHE ROKKETS、鮎川名義のソロの曲も収録されているが、今回は各アーティストの楽曲にゲスト出演した曲を中心にご紹介しながら、その魅力について記したい。

 先ずはシーナ&ロケッツのブレイクのきっかけを作ったYMO関連諸作だ。アルファ移籍後のシングル「ユー・メイ・ドリーム」が収録されたアルバム「真空パック」は、YMOの2ndアルバム「Solid State Survivor」とほぼ同時期に制作されていた。このYMOのアルバムでは表題曲「Solid State Survivor」とビートルズのカヴァー「Day Tripper」の2曲に参加している。特に「Day Tripper」は同年デビューした米ニューウェーブ・バンドDEVOのストーンズ・カヴァー「(I Can’t Get No) Satisfaction」に対する日本側の回答とも言える作品だ。鮎川のアブストラクトなギター・ソロと共にYMOのテクノ・アレンジが強烈に印象に残る(なお、シーナ&ロケッツ「(I Can’t Get No) Satisfaction」のDEVO版カヴァーが「#1 Special Edition」に収録されているので、是非こちらもチェックいただきたい)。また、高橋ユキヒロの「Murder By The Music」も当時では先端のテクノ・ポップ作品だ。鮎川の特徴的なトゥワンギー・ギターは、BlondieやB52‘sなどが目指したニューウェーブ・スタイルと完全に呼応している。

 次に、鮎川誠とジャズ。今まであまり語られてこなかったジャンルと思われるが、今作では、シーナ&ロケッツ「危険な関係のブルース」と佐山雅弘「フロム・ダスク・ティル・ドーン」が収録されている。シーナ&ロケッツ「危険な関係のブルース」は、仏フィルム・ノワール名作「危険な関係」のテーマソングで,3rd「ピンナップ・ベイビー・ブルース」の制作中に録音されたアウトテイクス。ここでは、ジャンプ・ブルース・テイストになっていて、とてもクール。佐山の「フロム・~」はラグタイム調のオリジナル曲に、鮎川のアコギによるプレイが印象的だ。

 最後にブルースとパンク。鮎川誠のギタースタイルはブリティッシュ・ブルースに大きな影響を受けている。例えば、サンハウスの「レモンティー」。オリジナルのタイニー・ブラッドショーやジョニー・バーネットというよりも、ヤードバーズのアレンジを踏襲しているが、それに加え1975年にも関わらずパンキッシュなテイストが加わっている。そして、パブロックの雄、ウィルコ・ジョンソンとタッグを組んだ「LONDON SESSIONS#1&#2」。ロンドン・パンクのベースとなったパブロックのオリジネーター達とのセッションは、恰もブルース・ロックのオリジナル・セッションにも聴こえ、そこには余裕さえも感じられる。 

ブルース、ロック、ブリティッシュ・ビート、パンク、ニューウェーブなどジャンルを超越しているところが鮎川誠のギタープレイの最大の魅力ではなかろうか。是非、この「VINTAGE VIOLENCE」をご試聴頂き、その魅力を再確認してほしい。