いま、未唯mieが面白い
ディスクレビュー

いま、未唯mieが面白い

 いま、未唯mieが面白い。

 あ〜イヤ、このセリフは正しくないな…。正確には、彼女はココ10年ぐらい、ずーっと面白い音楽を歌い続けているが、多くの人がそれに気づいていなかった、ということ。でもここ2〜3年、徐々に好転してきた感があって。今年で14回目を数える新春恒例行事、未唯mie Sings「新春“Pink Lady Night”」は、東京オンリーから大阪、横浜と拠点を増やし、今年の東京公演には追加が出た。そして昨年末には、2020年に日本橋三井ホールで開催された10周年記念スペシャル・ライヴの模様が、CD/DVDでリリースされている。それに次ぐカタチでの、この新録曲入りオールタイム・ベスト登場なのだ。

 ピンク・レディー解散からソロになった40余年を振り返ると、とても順風満帆だったとは言えない。オリジナル・アルバムも81年『I MY MIE』、82年『CALL GIRL “from MIE to you”』、84年『NEVER』、92年『Diamond & Gold』、07年『me ing』と少ないし、17枚のシングル群もほとんど80〜90年代。アニメタル・レディーの活動(98年)や各種コラボレーション、そしてもちろんピンク・レディーの断続的再結成は挟むものの、概ね未唯mieのソロ・キャリアは80〜90年代の前半、ゼロ年代以降の後半に大別できる。そのためこの2枚組オールタイム・ベストも、それに準じた構成になった。

 彼女の気持ちやスタンスも、それぞれの時期で大きく異なる。前期はピンク・レディーの延長で、所属事務所やレコード会社の意向に沿って活動。体当たりで映画出演するなど、試行錯誤も少なくなかった。だが独立して以降は、現在に至るまで自分自身のディレクションで軸足を定め、まったくブレが無くなった。後ろ盾を失い大きなタイアップやメディア露出の機会は減ってしまったものの、元アイドルのレッテルを引き剥がして本格派シンガーを目指し、ライヴ活動に注力したのだ。そしてそれを最初にパッケージしたのが、07年の『me ing』。そこからココに8曲セレクトされたのも、彼女の思いがそれだけ深いことの証左といえる。

 そして、この頃から未唯mieを力強くサポートしていたのが、21年に急死した名ドラマー:村上“ポンタ”秀一であり、日本屈指の編曲家として名高いキーボード奏者の井上鑑。かくいう筆者も、06年半ばにポンタ氏を取材し、「未唯mieちゃんが面白いことやってるから、チェックしとけよォ〜」と促され、気に止めるようになったのだ。

 そもそも前述した”Pink Lady Night”も、2010年に組まれた6ヶ月連続のマンスリー・ライヴの一環として始まったもの。誰もが知っているピンク・レディーの代表曲に、和のテイストやラテン、エスニック・テイストを取り込み、著名洋楽ヒットのメロディ(リフ)などを織り混ぜながら、奇想天外なアレンジで聴かせる企画だった。とりわけ5拍子の「ペッパー警部」は、ファンの間で話題騒然。そうしたインパクトの大きさが、今に繋がる原動力になっている。

 その他にもディスコ・ナイトや弦クインテットらとコラボしたドラマチック・ナイト、J-POPに特化したショウなど、毎回異なるアレンジャーを立て、バンド編成も変えてと、ユニークかつ幅広い表現力を提示。この流れはいろいろテーマを変えながら、脈々と今に続いている。個人的に印象に残っているのは、ラテン展開の “Exotic Carnival”、ピンク・レディーのアルバム曲やシングルB面ばかり集めた“裏ピンク”シリーズ、コーラス~ハーモニーの妙味をフィーチャーした“Breezing Harmony”シリーズ、2013年の“Bi-Monthly Live”にラインアップされた洋楽女性ヴォ―カル・カヴァー特集、そして最近では今様ジャズ・ファンクを披露した“Acid Pink”等など…。まさに斬新なアイディアで、常にアグレッシヴに攻める未唯mieがいる。

 もちろん彼女のヴォーカルも、数段スケール・アップ。元来ピンク・レディーだってTVのオーディション番組からデビューしたワケで、アイドルといってもそれなりの歌唱力はあった。しかしソロ期に入ってからは、実力を蓄えんとひたすらヴォーカル・スキルに磨きを掛け続け…。アニメタル・レディーでは、他にもハード・ロック系シンガーなど複数候補に挙がっていたらしいが、意外性や話題性を期待されたのか、未唯mieがその座に就くことになった。あのスレンダーなボディの何処からあんなド迫力の声が出てくるのか、とても不思議ではあるのだが、昔のイメージのまま最近の彼女のライヴを観たら、度肝を抜かれることは必定である。

 その未唯mieを取り巻くアレンジャーやミュージシャンの顔ぶれも、また豪華絢爛で。ポンタ氏や井上鑑、“Pink Lady Night”のプロデューサー:仙波清彦(パーカッション奏者にして邦楽囃子仙波流家元)、同アレンジャー:久米大作(プリズム〜ザ・スクエア[現T-SQUARE])だけに留まらず、レベッカや聖飢魔IIらをデビューさせた後藤次利、コブクロやスピッツ、プリンセス・プリンセス、ユニコーン、THE YELLOW MONKEYらをプロデュースした笹路正徳、SHOGUNやAB’Sで活躍してきたギタリスト:芳野藤丸、世界的ジャズ・ギタリスト:吉田次郎、J-POP系アレンジャーで日本レコード大賞編曲賞受賞歴を持つ山川恵津子、そして松原正樹や青山純(共に故人)、斎藤ノブ、土方隆行にムーンライダーズ白井良明、トロンボーンの第一人者:村田陽一、Amazonsなど、一流どころをズラリと揃えている。反対に、最近メキメキ頭角を現してきている若手ギタリスト/サウンド・クリエイター:Yuma Haraや、ユーミンのツアー・バンドでレギュラーを務めるようになったセッション・シンガー:佐々木詩織を抜擢したりも。経験豊富なベテランを中心に置きつつ、いつもアンテナを伸ばして有能な若手ミュージシャンをリサーチし、時に思い切ったキャストを敷く。そこも未唯mieライヴの大きな魅力だ。

 ところがこうして練りに練ったディレクションの意図、その真意が、どこまでファンに伝わっているのか? そこに彼女とスタッフの苦悩がある。アイドル期からの親衛隊やコア・ファンは、言うまでもなく彼女にとって極めて大切な存在だ。だがアーティストが誰であれ、熱狂的すぎるファンというのは、時に原理主義の度が過ぎて意中アクトの変化を認めず、進化に目を背けて、知らず知らずにご新規ファンを遠ざけてしまう傾向がある。その一方で、音楽IQの高いマニアックな音楽フリークからは、「所詮、元アイドルでしょ?」と軽視されがち。そうなってはアーティストは八方塞がり。未唯mieの勇気あるトライアルも、ただ徒労に終わりかねない。

 それでも彼女は怯むことなく、それにチャレンジ。コンスタントなライヴ活動を展開して、少しずつ支持を広げてきた。その成果が、最近ようやく実を結び始めたように見える。このオールタイム・ベストは、言わばその基礎固め。この先大きくステップ・アップしていくための、過去のソロ・キャリアの集大成なのだ。

 そうした未来へ向けての指針になる新録曲も用意された。Disc2のオープニングを飾る「Hallelujah《ハレルヤ》」がそれである。オリジナルは、カナダを代表するシンガー・ソングライターにして詩人のレナード・コーエン。84年の代表作『哀しみのダンス(Various Positions)』に収められ、ボブ・ディランやジョン・ケイル、ルーファス・ウェインライトなど、数多くのカヴァーを産んだ。コーエンはこの曲を書くのに5年を費し、その歌詞の崇高さから“世俗的賛美歌”として賞賛されている。本人は「宗教曲として書いたわけではない」そうだが、英国ではジェフ・バックリーで全英2位(07年)、アレクサンドラ・バークで全英首位(08年)とかなりの人気。その歌詞の深さに感銘を受けた未唯mieも、予てから「歌いたい!」と望んでいて、それがここで実現した。井上鑑の深遠なアレンジも然ることながら、さかいゆう、坪倉唯子のゲスト参加も要注目。そしてこの魂の歌をディープに歌い、Disc2のトップに置いた未唯mieの心情を理解してこそ、真のファンだと考える。

 ここから先、彼女がどこまで進化していくか、楽しみでならない。

 2023年1月 金澤寿和 / Toshikazu Kanazawa(CDライナーノーツ)

 (http://lightmellow.livedoor.biz)

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MIE to 未唯mie 1981-2023 ALL TIME BEST

2023年3月1日(水)リリース

CD2枚組 4,400円(税込み) VICL-65787~65788