ピンク・レディーの進化を記録した究極の映像集
ディスクレビュー

ピンク・レディーの進化を記録した究極の映像集

「これが40年以上前の映像!?」。誰もがそう驚くに違いない。ブラウン管テレビを観て育った昭和世代はその鮮明さに、いわゆるZ世代は現在のダンス&ボーカルユニットに通じる煌びやかなパフォーマンスに――。

2023年4月19日、音楽ファン待望のDVD-BOX『Pink Lady Chronicle TBS Special Edition』がリリースされる。TBSのアーカイブから選りすぐられたピンク・レディーの映像に、最新のデジタル・レストア&サウンド・マスタリングを施した6枚組のDVD。音楽番組における歌唱シーンはもちろん、伝説のライブや海外ロケの映像もたっぷり収録されており、収録時間は8時間30分を超える。同種の作品(単一アーティストのTBS映像集)では過去最大のボリュームで、永久保存盤と言っていいだろう。

オーディション番組『スター誕生!』(日本テレビ系)でスカウトされたミイ(未唯mie)とケイ(増田惠子)が“ピンク・レディー”としてデビューしたのは1976年8月25日のこと。アクトクコンビ(作詞:阿久悠、作曲・編曲:都倉俊一)が繰り出すキャッチーでインパクト抜群な楽曲、土居甫による斬新な振り付け、野口よう子が手がけた華やかな衣装で歌謡界に新風を吹き込んだ2人はミリオンヒットを連発し、国民的アイドルに上りつめる。それは娯楽の中心だったテレビの力が大きかった。

73年に白黒テレビを抜いたカラーテレビは75年に世帯普及率90%を突破。同じ年、媒体別広告費で新聞を抜くなど、テレビは名実ともにメディアの王者となっていた。国民の1日あたりの視聴時間は現在とそれほど変わらないが、当時はもちろん見逃がし配信などのサービスはない。家庭用ビデオもピンク・レディーが解散した81年の時点でも世帯普及率は5%ほどで、テレビは「リアルタイムで観るもの」だった。そんな時代、スパンコールをあしらったカラフルな衣装を身にまとい、従来の振り付けを超えた激しいダンスで歌う2人が脚光を浴びるのは必然。そう、ピンク・レディーは“カラーテレビ映え”するスターだったのだ。

デビュー3年目の78年に日本歌謡大賞と日本レコード大賞をダブル受賞し、歌謡界の頂点に立った2人は翌79年に海外へ進出。全編英語詞の「Kiss In The Dark」が全米ビルボードで坂本九以来のトップ40入り(37位)を果たしたほか、80年には米NBC系で冠番組が放送されるなど快進撃を続ける。筆者はその活躍をワクワクしながら見ていたが、時代を駆け抜けたピンク・レディーは81年3月に解散。わが家にビデオデッキがやってきたのは81年秋だったので、連日出演していたテレビ番組をリアタイで録画することは叶わなかった。

それから42年。「生きていてよかった!」と大袈裟でなく思えたのが今回のDVD-BOXである。もう視聴する機会はないと諦めていた映像に思いがけず再会できたのだから。1回しか観ていないはずなのに「あった、あった!」と記憶が甦ったのは、それだけ一瞬一瞬を目に焼き付けていた証だろう。嬉しいのはそれだけではない。今回の映像集、デビューから解散までの初期4年7ヶ月だけでなく、最初の再結成(84年)、2年限定の全国ツアー開催時(04年)、そして大反響を呼んだ2017年・2018年の日本レコード大賞での歌唱シーンまで収録されている。驚くべきはそのパフォーマンスで、彼女たちが着実に進化を遂げていることが確認できる。そういう意味で、このDVD-BOXはまさにクロニクル(年代記)。完成形に向かって走り続ける2人の姿を記録した大河ドラマと言ってもいい。

ではここからは6枚のDVDに収められた充実の内容を紹介しよう。

まずDisc1は最高視聴率50.5%を記録したお化け番組『8時だョ!全員集合』と、日曜昼の長寿番組『ロッテ 歌のアルバム』、二谷英明が司会を務めた『トップスターショー「歌ある限り」』の映像を収録。前二者はホールからの公開生放送が基本で、会場と一体となった臨場感が味わえる。デビューからわずか10日後に出演した『全員集合』における「ペッパー警部」の初々しいパフォーマンスや、ビッグバンドの高速生演奏で歌う「サウスポー」、雪まつりの会場でミニスカート姿で歌った「S・O・S」、女性デュオの先輩であるザ・ピーナッツのカバーなど、見どころは満載だ。

Disc2は2人がレギュラーを務めていたドラマ仕立てのバラエティ番組(『みどころガンガン大放送』『たまりまセブン大放送!』『UFOセブン大冒険』)と、04年に評判を呼んだ『中居正広のキンスマ!波乱万丈スペシャル!!』の映像で構成。前者はバラエティの演出に合わせて普段とは違うコスチュームで歌うシーンが楽しく、後者では衣装替えを交えつつ、往時よりもダイナミックさを増したパフォーマンスでヒットメドレーを披露する姿を堪能できる。

Disc3は歌番組の金字塔『ザ・ベストテン』の映像集。ピンク・レディーは第1回の放送で「UFO」が1位を獲得し、以後35週連続で10位以内にランキングされるなど、番組初期の顔として活躍を続けたが、本盤は前夜祭における歌唱場面から2003年の復活特番まで34シーンを収めている。司会の黒柳徹子、久米宏とのやり取りや番組名物の中継、さらにはケイとミイがソロでベストテン入りしたときの映像まで網羅しているのも嬉しい限り。もちろん「透明人間」の歌唱中に2人が画面から消えるシーンや、衣装の色が七変化する「カメレオン・アーミー」など、テレビ史に残る貴重映像も収録されている。

Disc4はギリシャロケを敢行した特番『特報エーゲ海で大冒険!!』『ヒットアルバム イン ギリシャ』(いずれも78年6月放送)、TBSが誇る大人向けの音楽番組『サウンド・イン“S”』、84年の再結成時の特番『ピンク・レディー アゲイン』の映像をコンパイル。10日間のギリシャ滞在でリラックスした表情を見せる特番では名所旧跡でヒットナンバーを披露する一方、実力派しか出られなかった『サウンド・イン“S”』では2人が好む洋楽を中心にアダルトな魅力を訴求している。再結成時の特番でミイとケイが当時の率直な気持ちを語り合う場面も必見と言えるだろう。

Disc5はピンク・レディーの真骨頂とも言えるライブの映像で構成。77年7月に田園コロシアムで開催した自身初の野外公演『サマー・ファイア’77』から5曲、78年12月に日本武道館で行われた『バイ・バイ・カーニバル’78』から17曲(メドレー含む)、84年9月に渋谷公会堂で開催された一夜限りのコンサート『Forever’84 Pink Lady~お元気でした?~』から延べ34曲(メドレー、アンコール含む)が収録されている。殺人的な過密スケジュールのなか、ファンから直接声援をもらえるコンサートが活動の原動力になっていたと振り返るミイとケイだが、その言葉どおり、熱狂的な応援を受けて生き生きと躍動する姿を確認することができる。

Disc6はTBSが放送した日本レコード大賞、日本有線大賞、東京音楽祭、古賀賞など、各音楽祭における映像集。特筆すべきはやはり日本レコード大賞で、晴れ舞台でのパフォーマンスはもちろんだが、寝食の時間を削って全力投球を続け、ついに栄冠(77年の大衆賞、78年の大賞)を手にした2人を労う、司会の高橋圭三のスピーチも感動を呼ぶこと必至と言えよう。また大賞受賞以来39年ぶりのステージとなった2017年の3曲メドレー、その翌年の4曲メドレーは圧巻の一語で、先ほど述べた「進化し続けるピンク・レディー」を実証。本企画を締めくくるにふさわしい構成となっている。

以上、各Discの見どころをかいつまんで紹介したが、百聞は一見に如かず。視聴覚を刺激するピンク・レディーの音楽は映像があってこそ、その魅力が十二分に伝わるので、ぜひ観て聴いて、一緒に歌って踊ってほしい。そして常にアメージングなエンターテイメントを追求してきたピンク・レディーの軌跡をこのDVD-BOXで体感していただきたい。

Text:濱口英樹