松本伊代の“トレジャー・ヴォイス”を豪華ミュージシャンの演奏で堪能できるスペシャルライブBru-ray!
ディスクレビュー

松本伊代の“トレジャー・ヴォイス”を豪華ミュージシャンの演奏で堪能できるスペシャルライブBru-ray!

 2022年2月8日、松本伊代にとって初のライブBru-ray作品『40th Anniversary Live “トレジャー・ヴォイス”』がリリースされる。これは前年10月21日のデビュー記念日にビルボードライブ横浜で開催した40周年記念公演(2ndステージ)の模様を完全収録したもの。当日はライブ配信も行なわれたが、Blu-ray化にあたって映像と音声をブラッシュアップして再編集。さらに、1stステージのみ上演された楽曲と、YouTubeチャンネルで公開したMV7曲が特典映像として収録される。同時発売の限定盤にはメイキング映像を収めたDVDと、2回のステージで演奏された全楽曲(MCは割愛)と配信限定でリリースされた音源2曲を収録したCDが付属。稀代の作曲家・筒美京平に愛された歌声を堪能できる内容となっている。

 ここからは日本を代表するミュージシャンの演奏と、類まれな“トレジャー・ヴォイス”でオーディエンスを魅了したアニバーサリーライブの模様をお届けする。

Text:濱口英樹

 時空を超えたメモリアルなステージだった。奇しくもこの日(10月21日)は松本伊代が1981年に「センチメンタル・ジャーニー」で歌手デビューした節目の日。詰めかけたファンを前に、アイドル時代の曲からカバー曲、最新曲まで、あらゆるタイプの歌をキラキラしたオーラを纏いながら歌い、踊る姿を見れば、誰だって「時空を軽々と超えた異次元の伊代ちゃん」に驚くに違いない。

 どの時代の楽曲を歌っても違和感なく成立するのは、今も変わらぬキュートなヴィジュアルとキャラクター、そして深みを増した歌声があってこそ。2020年に他界した筒美京平は「はっきり言って美声ではないが、実にユニークな響きのある声、ちょっと甘えっぽく、少年的でもある伊代さんの声が私は大好きです」(2004年発売『松本伊代BOX』ライナーより抜粋)とコメントしていたが、そのヴォーカルは今が最高と言えるほど磨きがかかっている。筒美作品のみで構成された40周年記念アルバム『トレジャー・ヴォイス』(2021年12月発売)が各レビューサイトで軒並み高評価を得ているのは何よりの証と言えるだろう。

 今回の公演も全18曲中9曲が筒美の曲で(カバー曲を含む)、デビュー以来30曲もの作品を提供された恩師への感謝を込めたライブとなった。音楽監督の船山基紀は筒美と最も多くの仕事をした編曲家で、これまでに松本伊代作品のアレンジも多数担当。『トレジャー・ヴォイス』では新曲「イエスタデイ・ワンス・モア」(筒美の未発表曲に湯川れい子が詞を乗せた作品)を含む、新録5曲のアレンジを手がけているが、筒美メロディの魅力も、歌手・松本伊代の魅力も、ともに知り尽くしていることが今回のタッグに繋がった。

その船山は自身が音楽監督・指揮を務めた『ザ・ヒット・ソング・メーカー 筒美京平の世界 in コンサート』(2021年4月)に参加した凄腕ミュージシャンをキャスティング。これにより音楽ファン垂涎の顔ぶれが揃うスペシャルなライブが実現したというわけだ。

 10月10日のビルボードライブ大阪に続く横浜公演には全国からファンが集結した。感染対策のため“伊代ちゃんコール”は自粛されたものの、揃いのハッピにハチマキ姿の親衛隊が手拍子とペンライトで満場の観客をリードする。18時開演の1stステージでは白地にゴールドの刺繍が入ったミニドレスにニーハイブーツ姿、21時開演の2ndステージではスパンコール付きのグレーのロングドレスを着用したこの日の主役が登場すると、割れんばかりの拍手が巻き起こった。

 待望のライブは『トレジャー・ヴォイス』でも冒頭を飾る「くれないホテル」でスタート。ビルボードライブにふさわしいジャジーなナンバーを持ち前のアルトヴォイスでしっとりと聴かせたあとは、1stアルバムの1曲目に収録された「ワンダフル・ハート」をポップに歌い、一気に会場を盛り上げる。最初のMCで「今日は『トレジャー・ヴォイス』の曲と、青春時代に戻っていただけるような曲をたくさん歌わせていただきます」とアナウンスした通り、最新アルバムと1stアルバムのオープニング曲で始まる粋な演出が心憎い。

 続いて演奏された「虹色のファンタジー」(1stステージは「マイ・ブラザー」)、「ポニーテイルは結ばない」、「ラブ・ミー・テンダー」、「シンデレラ・ハネムーン」(1stステージは「真夏の出来事」)はいずれも筒美京平作品。初期の楽曲ではピュアなヴォーカルで往時からのファンを魅了する一方、筒美のトリビュートコンサートでも歌った「シンデレラ・ハネムーン」ではダンサブルなディスコチューンをノリノリで披露し、歌い手としての幅を感じさせる。合間のMCでは「お客様」を「お友達」と言い間違えて爆笑を誘うなど、バラエティでお馴染みの天然ぶりも愛らしい。

 その“伊代ちゃんトーク”はミュージシャンの紹介コーナーでも炸裂する。メンバーに突然「イヌ派か、ネコ派か」を質問して空気を和ませたのだが、会話の端々から和気藹々の関係であることが伝わってきた。やはり天性の愛されキャラなのだろう。

 中盤では10代の頃にヒットさせた「チャイニーズ・キッス」、「太陽がいっぱい」、「恋のKNOW-HOW」を当時の振り付けそのままに歌唱。ルールに従い、声を出さずに応援する親衛隊への感謝を述べる気遣いを見せたあと、尾崎亜美から提供された名バラード「流れ星が好き」(1stステージでは「時に愛は」)を情感たっぷりに歌い上げた。当時はあまりの難しさに、尾崎を訪ねて上手く歌う方法を訊いたそうだが、この日は40年のキャリアを感じさせる素晴らしい歌声であった。

 今回の記念公演では事前にSNSで「聴きたい曲」のアンケートを実施。なんと83曲にリクエストが寄せられ、上位には20代前半で発表した「信じかたを教えて」、「サヨナラは私のために」、「すてきなジェラシー」が入った。いずれも船山が編曲したアダルトな作品で、ライブではこの3曲と、船山が作曲も担当した「ミスマッチ」をメドレーで披露。「ミスマッチ」は松本自身もお気に入りの曲で、リリースした時からライブでよく歌っていたという。

 メドレー後のMCで「こういう曲を出せたこと、そして今でも歌えることが幸せ」と語った松本は続いて最新曲の「イエスタデイ・ワンス・モア」を歌唱。デビュー曲「センチメンタル・ジャーニー」を手がけた筒美京平・湯川れい子のコンビによるノスタルジックなナンバーを楽しげに歌ったあとは、自身のインスタグラムで振り付け動画を公開した「あなたに帰りたい」とライブの定番曲「ビリーヴ」で本編を締めくくった。

 鳴り止まぬ拍手のなか、バンドメンバーや船山基紀を交えた記念撮影をして、いざアンコールへ――となったとき、思いがけないサプライズが起きた。この日は仕事で来られないと言っていた夫のヒロミが花束を持って登場したのだ。松本のマイペースなMCをネタに、ひとしきり笑いをとった彼はアンコール曲「センチメンタル・ジャーニー」を歌う妻の横で一緒に踊り、愛妻家ぶりを発揮。祝祭ムードが最高潮に達したところで、アニバーサリーライブは幕を閉じた。

 松本伊代はこの翌月、番組収録中の事故で腰椎を圧迫骨折し、現在加療中であるが、快復の暁にはステージでまた素晴らしいパフォーマンスを見せてほしい。そう願っているのは筆者だけはないはずだ。

【公演名】松本伊代 40th Anniversary Live “トレジャー・ヴォイス”

【日時】2022年10月21日(金) ※1日2回公演

 1stステージ 開場 17:00 開演18:00 /2ndステージ 開場20:00開演21:00

【会場】ビルボードライブ横浜 (横浜市中区北仲通5丁目57番地2 KITANAKA BRICK&WHITE 1F)

【内容】約80分のステージ(アンコール含め、全18曲を歌唱)

【音楽監督】船山基紀

【演奏】増崎孝司(ギター)、二家本亮介(ベース)、山木秀夫(ドラムス)、安部 潤(キーボード)、ルイス・バジェ(トランペット)、アンディ・ウルフ(サックス)、AMAZONS(コーラス)

[セットリスト]

M01. くれないホテル(西田佐知子のカバー/アルバム『トレジャー・ヴォイス』/2021年)

M02. ワンダフル・ハート(1stアルバム『センチメンタルI・Y・O』/1981年)

M03. 1stステージ:マイ・ブラザー (1stシングル「センチメンタル・ジャーニー」カップリング/1981年)、*2ndステージ:虹色のファンタジー(2ndシングル「ラブ・ミー・テンダー」カップリング/1982年)

M04. ポニーテイルは結ばない(15thシングル/1985年)

M05. ラブ・ミー・テンダー(2ndシングル/1982年)

M06. 1stステージ:真夏の出来事(平山三紀のカバー/アルバム『トレジャー・ヴォイス』/2021年)、*2ndステージ:シンデレラ・ハネムーン(岩崎宏美のカバー/アルバム『トレジャー・ヴォイス』/2021年)

M07.チャイニーズ・キッス(6thシングル/1983年)

M08. 太陽がいっぱい(7thシングル/1983年)

M09. 恋のKNOW-HOW(10thシングル/1984年)

M10. 1stステージ:時に愛は(9thシングル/1983年)、*2ndステージ:流れ星が好き (11thシングル/1984年)

M11. 信じかたを教えて(19thシングル/1986年)

M12. サヨナラは私のために(20thシングル/1986年)

M13. すてきなジェラシー(22ndシングル/1987年)

M14. ミスマッチ(8thアルバム『天使のバカ』/1986年)

M15. イエスタデイ・ワンス・モア(アルバム『トレジャー・ヴォイス』/2021年)

M16. あなたに帰りたい(14thシングル/1985年)

M17. ビリーヴ(13thシングル/1984年)

<アンコール>

M18. センチメンタル・ジャーニー(1stシングル/1981年)

※「M07~M09」と「M11~M14」はメドレー