ビクター時代のいしだあゆみ
流行歌・コラム

ビクター時代のいしだあゆみ

歌手・いしだあゆみの代表曲は?と問われれば、ほとんどの人が「ブルー・ライト・ヨコハマ」を挙げるだろう。1968(昭和43)年、いしだあゆみが二十歳のときに日本コロムビアから発表した、ファンならずとも知らぬ人はいないほどの昭和歌謡の傑作である。それ故に、いしだあゆみは日本コロムビアの歌手として記憶している人が多いかも知れない。でも実は歌手としてのデビューはビクターからであった。1964年(昭和39)年、いしだあゆみ15歳のときである。

いしだあゆみ。本名:石田良子。1948(昭和23)年生まれ。大阪府出身。小学生のころから児童劇団に所属し舞台にも出演していたが、1962年(昭和37)年、中学生のときに本格的に歌に取り組むために東京の学校に転校し、いずみたくに師事。翌’63年にはNETテレビの音楽バラエティ番組『おしゃれ作戦』にレギュラーとして抜擢され、“15歳の新人歌手”として注目を集めた。さらに翌’64年初頭からはTBSのドラマ『七人の孫』に森繁久彌の孫役で出演、お茶の間でも大人気に。そして同年3月20日にビクターからシングル「ネエ、聞いてよママ」で歌手デビューを果たした。

そこからのレコード発表攻勢はすさまじく、デビューした1964(昭和39年)年だけでなんと9作品・14曲ものシングル(B面曲、共演曲、海外曲カバー含む)を発表した。同じ年、当時ビクターの看板になりつつあった橋幸夫のシングル曲数15曲に匹敵する数である。ビクターがいかに大きなエネルギーをいしだあゆみに注いでいたかがわかる。曲調やコンセプトもバラエティに富み、青春歌謡の名作「サチオ君」、やなせたかし作詞・いずみたく作曲コンビによる「だれだって一人じゃない」(東京12チャンネル『ハローCQ』主題歌)、ドラマ『七人の孫』がきっかけとなり森繁久彌と共演した楽曲「素敵なパパ」、雑誌『明星』誌上で公募された“あゆみちゃんが歌う歌”入選作品「先生を好きでした」「あゆみの子守唄」など、話題作を続けた。

いずみたくはデビュー曲「ネエ、聞いてよママ」以降、海外曲カバーを除き12作連続でいしだあゆみの楽曲を作曲した。1964年当時、ビクターでは専属作家がまだ幅を利かせており、その頃にビクターから発売されたシングル盤ライン・ナップには、作詞では佐伯孝夫や宮川哲夫ら、作曲では吉田正、渡久地政信といった名作家たちの名前が並ぶ。そんな時代にあって、専属作家ではなかったいずみたくが新人歌手の楽曲を何作も書き続けたのである。これは当時のビクターではかなり挑戦的な取り組みであった。

そんなビクターの大攻勢は続くのだが、なかなかシングル・ヒットにはつながらない。いしだあゆみ人気はテレビドラマ『若い河』(NHK)、『青春をぶっつけろ!』(TBS)などへのレギュラー出演や、『ハウス・バーモントカレー』といったテレビCMなどを通してどんどん拡大するのだが、それに伴ってレコードの売上も順調に伸長というわけにはいかなかった。1966(昭和41)年になるとシングル曲の発表頻度はゆるやかになる。同年に専属俳優として東宝と契約することを発表し、翌1967(昭和42)年には歌手活動をしながら、『千曲川絶唱』をはじめ東宝映画に立て続けに出演する。

しかし、歌をあきらめたわけではなかった。逆に、歌手としての成長を続けるためにテレビでのレギュラー出演を減らし、それまでの元気で明るい現代娘的なイメージからの脱却を図っていたのである。その変化はビクター在籍最後の一年に発表された楽曲を聴くとよくわかる。1967年に発表の「恋のシャドー」(作詞:なかにし礼、作曲:鈴木邦彦)は、時のブームであったGS調を採り入れ、レコード・ジャケットのクールなビジュアルとともに、それまでのいしだあゆみ像をガラリと変えて“大人のムード”を演出した。またこの曲は“一人GS”の名曲としての誉れも高く、いしだあゆみのビクター時代の代表作の一つに数えられる。この後、「こまらせたいの」「小雨の思い出」(作詞:有馬三恵子、作曲:鈴木淳)と大人調を続け、1968(昭和43)年、日本コロムビアへ移籍する。

いしだあゆみのビクター時代の音源は、既に各音楽配信サービスで聴くことができる。もちろん、コロムビア時代の音源も豊富に公開中である。両方を同時に楽しめるプレイリストも先ごろ公開されたので、名歌手の軌跡をじっくりと聴いていただきたい。そして、ビクター時代の音源で唯一未配信であった森繁久彌との共演作「素敵なパパ」(作詞:森繁久彌、作曲:いずみたく)も、5月14日(水)に配信されることがこのたび決定した。お楽しみに!

 

<配信中のアルバム>

いしだあゆみ ステレオハイライト+ボーナストラック

ステレオハイライト第二集

<プレイリスト>

いしだあゆみ SINGLES

           

女優、歌手として長きに渡りご活躍されていたいしだあゆみさんが、令和7年3月11日にお亡くなりになりました。謹んでご冥福を祈りいたします。