CASCADE Debut 30th Anniversary Tour 2025 「 ネブラマクラ 」ツアーファイナルの渋谷Spotify O-WEST公演ライブレポート
1995年11月にデビューしたCASCADEは、当時完全なる原石。原石中の原石だった。テレビのオーディション番組を勝ち抜いてレコード会社と契約し、数か月後に早くもレコーディング。まだ何者でもなく、自分たちが今後どうなるかもわからず、インタビューの席では居心地の悪さをあからさまにしながら周囲への警戒心を隠さずにいた。そんな彼らがもっとも自分たちらしさを出せる場がライブだった。場を重ねるごとに増え続けていく動員数はすぐに武道館へと達し、代々木体育館2days即日完売も記録した。

2025年12月14日。全13本のツアー最終日にして、30周年記念ライブ。会場は1995年12月10日のデビューライブと同じO-WEST。私もその場にいたが、とにかくあっという間に終わってしまった記憶しかない。2階席をぎっしり埋めた関係者の数は注目度を表していた。あれから30年が経ち、またここに帰ってくる日が来ようとは、正直想像していなかった。
16時半を少し過ぎてアルバム・タイトルである「ネブラマクラ」がSEとして鳴る。ラフな3人に対し、髪も赤く染めたTAMAは赤と黒のユニセックスなスタイル。厚底の靴も昔と変わらない。1曲目は最新曲「BILLY」。そして2014年の「バーバリアン」、1997年の「YELLOW YELLOW FIRE」と続く。2002年に解散し、2009年にベーシストのMAKKOを欠く形で再結成したCASCADEは、MASASHIの世界観が一貫して変わらず、流行とは無関係な音作りをしてきたため、30年前でも2025年の現在でも楽曲に時代的な落差がない。それでも思い出を味方につけた曲ならではの風景が次々によみがえってくる。

「渋谷に帰ってきましたー! 楽しんでくれー! 行きまっせー!」というTAMAの第一声に続くのは軽快な「I WANNA KISS TONIGHT」、パンキッシュな渦に巻き込む「ミ・ツ・バ・チ」「VIVA NICE TASTE」。懐かしさに浸っている場合ではない。20代の当時も今も、コンポーザーMASASHIの頭の中は本当に不思議だ。「劣等歌」を初めて聴いたときの驚きは今もあざやかだ。
9曲目の「プレイバック16」はMASASHIの青春時代がテーマになっている。共感する人も多いだろう。昔よりも声が出ているのではないかと思わせるTAMAのボーカルは、感情をこめすぎないところがやはりいい。どんなに甘い言葉を歌っていてもどこか殺伐としたラブソングはCASCADEの真骨頂だ。
12曲目「Sexy Sexy,」はアニメ『学校の怪談』のエンディングテーマだったため、海外での認知度も高い。リリース当時はライブに行くことを許されなかった小学生が大人になり、ようやく足を運べて生で聴けることを喜んでいる層も多いと聞く。

TAMAがステージから消え、MASASHIのMC。煽りに徹するTAMAに比べ、MASASHIは穏やかに喋る。30年を振り返り、「感慨深くなるかもしれないけどそれよりも今を感じて生きていこう」とメッセージ。HIROSHIは30年前のここでのライブ1曲目が「いるかな」だったことを覚えていた。楽屋では「偉い人も見に来ているから失敗したらどうしよう」とずっと緊張していたらしい。3ピースでのファンクなインスト曲は「セッション_ピトゥマンダ」とタイトルが付けられていた。HIROSHIのタイトなドラムが跳ねる。サポート・ベーシストはメトロノームのリウ。遠慮のないアクションが気持ちいい。
「チェルシー」の前の一言は「それではお待たせいたしました!」(ここの台詞を私は密にコレクションしており、今まででいちばん笑ったのはなんの脈絡もなく「そんでもってチェルシー!」)。ラストツアーが終ってから渋谷AXでファンクラブだけのライブがあり、そこではTAMAが歌う最初で最後の「チェルシー」が聴けたことを覚えている。

TAMAが帰ってきて「0と1の黙示録」。今日のセットリストには『ネブラマクラ』収録曲は全部入っているが、ツアー中は日によって替えていたらしい。「湖の上50メートル」「debug」で鎮めたあとはダンスタイム。「FLOWERS OF ROMANCE」にまつわる記憶がある人は多いだろう。
私にも思い出す光景がある。ラストツアー初日の新潟でのこと。開演してすぐにふと横を見ると、ライブハウスの壁にもたれ腕組みをしてにらむようにステージを見つめている人がいる。「もうずいぶん聴いてないけど最後だから来てやった」であろう気配がわかる。ライブ終盤、彼女はその姿勢のままポロポロと涙を流していた。涙をぬぐいもせずにステージをにらんでいた。「かつて自分を形作った音楽」には時を経てもそれほどの力がある。彼女は今、どうしているだろう。新しいアルバムが出たことを知ってくれているだろうか。
「しゃかりきマセラー」が終り、TAMAが「進化系のCASCADEを2曲聴いてくれるかー?」。ラストは「Midnight Runner」「ヘッチャラッチャ・クラッシュ」。この並びにプライドと未来を感じる。アンコールは無敵の4曲。30年が過ぎても「Kill Me Stop」の衝撃は薄れない。あのときのあの混沌がはじけ、カラフルな夢が飛び散った。
「cuckoo」が流れる中、ひとりずつの挨拶。久しぶりに地方のカスケーダーに会えたツアーだったこと、30年みんなに支えられてきたこと、これからも進化し続けるからついて来てほしいこと。メンバーがステージを下りて行き、歓声と拍手が歌声に変わる。全30曲、きっちり2時間。2025年のCASCADEはひとまず終わった。続いていく物語はどこに向かうのだろう。
TEXT:佐々木美夏
