マスターピース・コレクション〜シティポップ・マイスター名作選の魅力
シティポップ・コラム

マスターピース・コレクション〜シティポップ・マイスター名作選の魅力

いま、空前とも言える世界的ブームの最中にあるシティポップ。元々は都会的で洗練された70年〜80年代の洋楽的和製ポップスを指す言葉だったが、裾野が爆発的に広がった今はもう、その捉え方も一枚岩ではない。世界的ブームの牽引役は、ネットやクラでシティポップを聴き、煌びやかなサウンド・メイクや80年代ブギーのグルーヴに魅せられた海外リスナーたち。中心は20歳代とまだ若く、アイドルや歌謡曲、アンビエント系も分け隔てなく楽しむ。これに対して、日本のシティポップ岩盤支持層は40代。はっぴいえんど系譜やニューミュージック期から和製ポップスに親しみ、シティポップ進化のプロセスを肌感覚で知る還暦超え世代だって少なくない。そもそも国内リスナーには歌詞がダイレクトに伝わるし、アーティストたちの出自も分かりやすいから、自ずと国内外の目線に違いが出る。

ただ気をつけたいのは、どちらか一方が正論、ではないこと。エリアも時代も文化的背景もすべて異なるから、ギャップはあって当然だ。むしろ互いを尊重して世代や国境を超えた相互理解が進めば、シティポップはスタンダードとして継承され、将来に向けてポジションを確立する。そうした意味では、いつか必ず訪れるブーム終焉を見据え、どう軟着陸させるかが重要。そのひとつの方策が、70〜80年代のシティポップを創っていた作編曲家やミュージシャンたちのワークス、匠の仕事を紐解くことだ。当《マスターピース・コレクション》の前回『フィメール・シティポップ名作選』も、数あるアイドルや女優の作品から、シティポップの要人たちが影で辣腕を振るったアルバムばかりが選出され、いわゆる“裏テーマ”が存在した。ならば今度はその匠たちが、より自由度の高い環境で制作した作品をフォーカスしては?と思い立ったのが、この『マイスター名作選』の原点である。

選んだのは11アーティストによる18作品。一般レヴェルでは“知る人ぞ知る”名前が少なくないが、事情通に言わせれば、“あの人気アーティストの陰にこの人あり”、“あの名曲を書いたのはこの方”という実力派ばかりだ。もちろんこれ以外にも、もっと広く認知されるべきミュージック・マイスターはゴマンといるが、早くからシティポップ系リイシューに積極的だったビクターゆえ、既に復刻済みアイテムも多い。この【マスターピース・コレクション】では既に、惣領泰則&ジム・ロック・シンガーズやREICO、木戸やすひろらのアルバムがラインナップされたが、ヒットメイカー林哲司、ソングライター岸正之、トップ・セッション・ギタリスト:松原正樹らのソロ作がココへ並んでも何の不思議はなく、『マイスター名作選』に相応しい名匠たちと言える。

では今回のセレクト11組を簡単に。キャリア豊富な女性シンガーたちから紹介すると、弦カルテットのKARYOBINを率いて人気を得たシンガー・ソングライター:上田知華のソロ作が2枚。山下達郎のバック・コーラスを長く務めた国分友里恵は、林哲司や角松敏生とのチームアップでも知られる一方、昨今のシティポップ人気で存在感を爆上げした。今回の復刻2作中、95年作『憧憬』は、中山美穂が大ヒットさせた<ただ泣きたくなるの>のセルフ・カヴァーを収録している。後に大空はるみ名義でも作品を残すTAN TANは、彼女たちの先輩格でセッション・シンガーの先駆的存在。高中正義や松岡直也、サディスティックスなど、クロスオーヴァー/フュージョン系アクトのフィーチャリング・シンガーとしても活躍した。

フォーク・クループ:ザ・ディラン出身の西岡恭蔵は、細野晴臣や鈴木茂、ムーンライダーズ人脈に連なるベテランのシンガー・ソングライター。その細野のトロピカル三部作の延長にあるリラクシンなリゾート・ポップ作品が、80年前後に発表された今回の2作である。

サントリィの愛称で知られる坂本洋は、湯川トーベン(元・子供ばんど)と組んだバンド、アルファベッツ出身。稲垣潤一や桑名正博、杉真理、庄野真代らのサポートでもお馴染みの、歌えるキーボード奏者兼作編曲家だ。90年代初めに発表したL.A.録音を含む2枚のソロは、ヒットには縁遠かったものの、いま聴いても素晴らしいオトナのポップ・アルバムに仕上がっている。

セッション・シンガーの楠木勇有行、オメガトライブや菊池桃子、中原めいこらのアレンジで再注目されるキーボード奏者:新川博、その新川と故・松原正樹が組んだ職人集団GARP、山下達郎やMISIAのサポートで知られる重美徹らのアルバムは、いずれも2000年にビクター傘下に発足したaosis records作品群。”大人による大人のための音楽”を標榜したレーベルだけに、その音からはホンモノの香りが漂う。それに近い質感を持つのが、2021年に急逝した人気ドラマー:村上ポンタ秀一率いるPONTA BOX が、名シンガーの吉田美奈子をフィーチャーして録音したジャズ・カヴァー集。シティポップ職人たちの本気印が刻まれた珠玉の2作を、トリビュートの意味を込めてお届けしたい。

そして最後は、今回初CD化となるDEW のワン&オンリー作。セッション・ギタリスト:安川ひろしと、後に山下達郎や吉田美奈子、さだまさしなどのサポートで知られる倉田信雄(kyd)のユニットで、最近はクラブ・シーンでスポットがあたり、先行してアナログ7インチがリリースされている。

 若手アーティストが創る新世代のシティポップは、コロナ禍で進化を続けたベッドルーム・ミュージックとも近似値にある。でも70〜80年代メインストリームのそれは、単なるアイディアだけでなく、優れたアレンジャーが構築する緻密なアンサンブルや、セッション・ミュージシャンたちの卓越した演奏スキル、そして最先端テクノロジーを駆使したプログラムに支えられていた。安易な名曲カヴァーやスタイルの引用に留まらず、その深いところを捉えて昇華していくことが、このブームを一過性のモノに終わらせないメソッドの一端なのである。

シティポップ・マイスター名作選監修/音楽ライター

金澤 寿和 / Toshikazu Kanazawa