筒美京平 マイ・コレクション 半田健人×鈴木啓之 SPECIAL INTERVIEW
インタビュー

筒美京平 マイ・コレクション 半田健人×鈴木啓之 SPECIAL INTERVIEW

これは悩みましたね。今回曲を選んでゆく中で京平先生のすごさを再認識したポイントのひとつはバリエーション、それは曲調のバリエーションではなくて、こんなに多くの歌手に作品が分散している作家も少ないんじゃないかと。ほかにも名手のかたはいっぱいいらっしゃいますけど、ある程度アーティストが固まっていたりするじゃないですか。だから20曲選んでいいという余裕をいただいたんですけれど、20曲でも正直きびしい。あっという間ですね。ビクター盤なのでビクター音源を多めにといった事情もありましたけど、実は今回漏れてしまった曲もまだまだあったりしますね。

選曲のポイントとしては、京平先生の音楽で、皆さんは作曲家のイメージが先行していると思いますけれど、アレンジャーとしての先生のサウンドが僕は好きなので、見ていただけると判るように、京平先生のアレンジ作品が大方を占めているんです。ご自身が編曲なさっていたのは60年代から70年代半ばくらいまでですかね。もちろんそれ以降もアレンジはされていますが、70年代後半になると、後輩にその任を譲っておられたりしたので。だから今回の選曲も70年代前半のものが多くなりました。結果論なんですが、1972年つまり昭和47年に発売された曲の多いこと! 自然と固まっちゃったんですよ。これは無意識ですね完全に。選び終わってライナーを書いている時に、発売年度をチェックするじゃないですか。その時に、あれぇ72年ばかり選んでる! と思って。この辺の音が好きだなというのをつまんでいったら固まってしまったと。それであせって80年代を入れたというところがありますけれども(笑)。

この企画をいただいた時に、真っ先に思い浮かんで、「この曲も入れていいんですかね」とディレクターに問うた曲があるんです。それが奥村チヨさんの「窓」なんですけれども。「陽のあたる場所」というシングルのB面曲で有名ではない歌なんですが、この曲がなぜか一番に浮かんでしまったんですね。それくらい僕は京平先生の裏の顔の方が好きだと。表向きの顔というか、ヒットに代表されるものというのは、僕からすると狙いすぎてるといいますか、言葉に気をつけないといけないんですが、仕掛けが多すぎるということがありまして。それはそれで真似出来ない素晴らしいものなんですが、今回はそこばかりではなく、これまで陽のあたらなかったシングル外の曲であったりとか、代表作ではない曲を今一度聴いてもらいたいという思いが多かったですね。たぶんそっちが京平先生の本質だと僕は信じてますね。結局は人間ですから、自然に書けるものと意識して書くものとの二つに分かれてしまう。おそらくここで選んだ20曲というのは自然体に近いんじゃないかという。勝手な思い込みかもしれませんが。

20曲という制約の中で、もうちょっと重複させたかったのは、歌手でいうと伊東ゆかりさんですね。僕は女性歌手で一番好きなのは誰かと聞かれたら、間違いなく伊東ゆかりさんと答えます。伊東ゆかりさんにも京平先生はたくさんの作品を遺されていますよね。代表的なのが『ふたたび愛を~伊東ゆかり・筒美京平 Love Sounds』というアルバム。ジャケット写真に2ショットで写られてますけど、こういうことは珍しい。それを思うと、伊東ゆかりさんという歌手に個人的な思い入れや愛情があったのかなと思って。そこに書かれた音もピカイチのものが多いです。今回は「陽はまた昇る」という曲を入れさせていただきましたけれでも、やはりDENONレーベルの「明日をめざして」との二択で迷ったんですよ。あとはコロムビア時代最後、松本隆先生との「プレイボーイ・マガジン」もよかったりするんですけれども。まだまだいっぱいあるんですよ。この場を借りて言わせていただくと、テンプターズがメンフィスで録ったアルバムがあるんですが、そこに入ってる「ミス・K」ですとか、石田ゆりさんのLPに入っている曲も迷いました。あとはマニアックなことを言っちゃうと、ヤング・タウン・シンガーズの「風船旅行」という曲がありまして。そういう全く売れてないんですけど好きな曲というのが、後から後から思い出されるわけですよ。なかなかに大変な作業でした。

曲順も変にこねくり回すよりは、ざっくり年代順にしました。大御所の橋幸夫先生から始まって、僕が男性歌手で一番好きな野口五郎さんで締めさせていただきました。「過ぎ去れば夢は優しい」は曲はもちろんのこと、売野雅勇先生の詞も男心を解ってるね! というものですし、この詞とメロディには川村栄二先生のアレンジが大正解だったと思います。五郎さんもすごく優しく歌っておられていいんですよ。

※動画からの抜粋原稿となります。

半田健人:俳優、作曲家、タレント、歌手、コラムニスト。

鈴木啓之:アーカイヴァー。テレビ番組制作会社勤務の後、中古レコード店経営を経て、ライター及びプロデュース業。昭和の歌謡曲、テレビ、映画について雑誌などへの寄稿、CDやDVDの監修・解説を主に手がける。

筒美京平 マイ・コレクション 半田健人(ビクター盤)

2021年10月20日発売 VICL-65578  20曲収録 価格:2,200円(税込)