岩崎宏美 シティポップとしての魅力
岩崎宏美の「Street Dancer」が海外で聴かれるようになってから、何年くらい経つだろうか。この曲は、Spotifyで243万回、岩崎宏美公式youtubeチャンネルでも197万回の再生回数を獲得している世界的メガ・ヒットの一つだ。この曲はシングル曲ではなくアルバムに収録されている曲だが、Spotifyでは代表作「聖母(マドンナ)たちララバイ」、「シンデレラ・ハネムーン」に次ぐ再生回数を誇っている。この曲は世界的なムーブメントになったシティポップの流れで再評価され、松原みき「真夜中のドア〜Stay With Me」や竹内まりや「プラスティック・ラヴ」などの楽曲と同様に世界中のリスナーに愛好されている。
そもそも「Street Dancer」は岩崎宏美の海外LA録音オリジナル・アルバム『WISH』(1980年)に収録され、筒美京平が米AORアーティスト、ジム・フォトグロの「Beg, Borrow, Or Steal」にインスパイアされたと思われる作品だ。ジミー・ジョンソン、カルロス・ベガ、ヴィニー・コライウタ、トミー・モーガン、ヴィクター・フェルドマン、マイケル・ボティッカーなどの手練れのスタジオ・ミュージシャンが終結し、歌謡曲の枠組みを超えた良質なAOR作品として認められている。
岩崎宏美のもう一つのシティポップ名曲は「カサノバL」だ。この楽曲は作編曲家 山川恵津子が全面的にプロデュースしたアルバム『わがまま』(1986年)に収録されている。こちらも「Street Dancer」同様、シングル曲ではないが、Spotifyで約70万回再生を誇り、世界中のDJに“和モノ・ブギ―”もしくは“サバンナ歌謡”として認知されている。
このサバンナ歌謡の語源は、後にココナッツを結成するキッド・クレオールが1974年に結成したドクター・バザーズ・オリジナル・サバンナ・バンドに由来する。ファンカラティーナ・サウンド全開のこの曲はキッド・クレオールが手掛けたエルボウ・ボーンズ&ザ・ラケッティアーズ「ナイト・イン・ニューヨーク」のアレンジに強く影響を受けていると思われる。洗練されたアレンジとコーラスワークに定評のある山川の手により、さらにダンサブルかつ、ゴージャス感が付加されている。
また、現在、中古市場で数万円以上の高値をつけているアルバム『Me too』(1988年)に収録されている「Dance with a loneliness」と「私らしく」も今まさに聴くべきシティポップの名曲だ。近年、世界的に評価されているオメガトライブ、ラ・ムーなどを手がけている作編曲家 和泉常寛による作品で、世界的に活躍しているDJ Night Tempoもお気に入りの作品としてセレクトしている。
最後にアルバム「私・的・空・間」(1983年)。シングル「素敵な気持ち」と「真珠のピリオド」を収録したオリジナル・アルバムだが、筒美京平とブレイク直前の玉置浩二の二人が楽曲提供している隠れ名盤だ。このアルバムは、海外の再生数はさほど高くないが、シティポップ好きには欠かせない。マイケル・ジャクソン「ガール・イズ・マイン」をリファレンスした「素敵な気持ち」やミッド・アーバン・グルーヴ「Morning Breeze」、「二人の午後に」など、シティポップ名曲が数多く含まれている。
これらの曲は歌謡曲というジャンルに捕らわれていて、もしかすると聴いていない方も多いかもしれない。しかし、海外のリスナーの様にその枠組みを一度取り払って、彼女の作品を聴いてみてはいかがだろうか。今まで、気が付かなかったアレンジの斬新さやリズムの先進性など、新たな発見に気づくと思う。