「マスターピース・コレクション~フィーメル・シティポップ名作選」今回の聴きどころ
「マスターピース・コレクション~フィーメル・シティポップ名作選」の最新作5枚が今回ラインナップに加わった。アン・ルイス、桜田淳子、松本伊代、麻生真美子&キャプテン、高村亜瑠のシティポップ的な聴きどころを紹介したい。
まず、1979年8月に発売されたアン・ルイスのディスコ/シティポップ・アルバム「ピンク・キャット+5」。同作は山下達郎がプロデュースした作品としておなじみだが、吉田美奈子&達郎自身の作詞作曲による珠玉の楽曲が収められている。代表曲は達郎自身もライブアルバム「JOY」で取り上げた“恋のブギ・ウギ・トレイン”だが、近年では2017年にアナログ・シングルで再発された「Alone in the Dark」が人気だ。ODYSSEY もカヴァーしたLAMONT DOZIER “GOING BACK TO MY ROOTS”のオマージュとも言えるサウンドは既に、和モノ・クラシックとし定着している。同じく達郎バンドのギタリストだった椎名和夫も加わった“Love Magic”も強力なディスコ・チューンだ。“恋のブギ・ウギ・トレイン”のB面のメローな“愛・イッツ・マイ・ライフ”も捨てがたい。
そして、矢野顕子と小田裕一郎が提供した桜田淳子「My Dear+4」。桜田淳子というと、70年代後半から80年代初頭の中島みゆきとのコラボレーション「しあわせ芝居」「追いかけてヨコハマ」などが有名だが、矢野顕子との組み合わせも非常に珍しいのではないか。“なぜかためらい”や“刹那Tic”などの矢野メロディとのマッチングも素晴らしいが、このアルバムで才能が全開しているのは小田裕一郎の提供曲だろう。起用に関しては事務所の先輩だった松田聖子のフィードバックと解説に書いてあるが、大村雅朗の素晴らしいアレンジと相まって、イントロが強烈で斬新な“め・ま・い…”と、シティポップ・テイストな“With You”は淳子の別世界を開拓している。
松本伊代「サムシング・I・Y・O+1」。通常の話題だとシングル“ラブ・ミー・テンダー”収録のセカンド・アルバムという事になるが、今、全世界で流行っているのは“バージニア・ラプソディ”だ。伊代のシティポップ的人気曲は、近年再評価が著しいPazzの西脇辰也の提供曲 “Private fileは開けたままで…”とSWING OUT SISTERSの“Break Out”のリファレンス“それから”だが、TOTOやAIRPLAYのAORテイストを盛り込んだ” バージニア・ラプソディ”はSpotifyで43万回再生。“それから”の21万回を追い抜き、“Private file…”の52万回に追いつこうとしている勢いだ。
また、ダンス・ポップ・ユニットとして近年、評価が著しい麻生真美子&キャプテン「エキゾチック浪漫+9」。松本伊代のデビュー当時のバックダンサーだったキャプテンと「スター誕生」出身の麻生真美子が結成したグループだが、T-BIRDの小室良の提供曲“恋の45口径”は一筋縄ではいかないファンキーテイストな楽曲。シティポップとしては緑一二三(たきのえいじ)提供の“ロミオに夢中”や佐藤準の“I miss you CHICAGO”が挙げられる。他に鮎川麻弥もカヴァーしたMODERN TALKINGの“愛はロマネスク YOU’RE MY HEART,YOU’RE MY SOUL”のカヴァーをはじめ、様々なダンス・グルーヴが楽しめるアルバムだ。
最後に、高村亜留の「ARU FIRST」。こちらも冒頭のアン・ルイス同様、吉田美奈子&山下達郎コンビの“LAST STEP”のカヴァーが珠玉だ。CHERYL LYNNの”GOT TO BE REAL”な『恋は最高(I’M IN LOVE)』もフロアでは人気の作品になっている。笹路正徳の提供“SAY THAT YOU LOVE ME”はアーバン・ブラック・テイスト満載のトラック。また、村田和人が提供した“パーティーが終った後で”と“ブレーキを踏んで怒って”の2曲が最もシティポップ濃度が高いかもしれない。
近年では、シティポップのイメージも変化し、J-POPは勿論のこと、歌謡曲の範疇まで広がってきた。もともと、最初にシティポップを見つけたのは欧米の外国人だが、彼らの様にジャンルに捕らわれず、そのサウンドを楽しんで頂ければ幸いである